私がいないキャンバス —— 「スランプの深淵」
「スランプの深淵」—— 真里視点
武蔵野美術大学の実技試験会場。私はどこかフワフワとした上の空で用意された和紙の前に座っていた。これまでの目標としてきた場所。この試験の結果で私の未来が決まる。父の意志を継ぐための、最初の関門。
でも、なぜだろう。頭に綿が詰まったように真っ白で、足が地を踏んでないように虚脱している。
「それでは、始めてください」
試験官の声が響いた途端、周りの受験生たちが一斉に動き出した。鉛筆でスケッチを始める音、絵の具を溶く音、集中した息遣い——みんな必死だった。みんな自分の夢に向かって筆を握っていた。
私も筆を手に取った。でも、手が震えていた。
お父さんの罵声が聞こえる。手の震えが激しくなる。ちゃんと筆を持てと手を棒で叩かれたことを思い出す。
左手で筆を持った手を抑えようとするが、…

